私は天使なんかじゃない
思惑
1つの展開が終息すると、また1つが生まれる。
堂々巡り。
もちろんそれを終わらせる方法がある。
元を断てばいい。
「ふぅ」
ミディアの尋問を終えて私は彼女が軟禁されている部屋を出る。
ワーナーの居場所が分かった。
スチールヤードだ。
元々私はあの眼帯野郎とは無縁だしこの街とも無縁。アッシャーともそもそも何の縁もない。
私は異邦人。
わざわざこの街の状況と人間関係に介入させたのはワーナーだ。奴は私を手駒として扱えると思い込んでこの街に送り込んだ。
それが最初の過ち。
……。
……だけど結局関っちゃったよなぁ。装備取り戻したら単身キャピタル・ウェイストランドに舞い戻るつもりだったのに。
やれやれだ。
グリン・フィス達は元気かな?
まあ、ともかくはこの街の状況を解決するのが前提だ。
別にアッシャーに心酔はしていない、奴隷達の境遇の改善も必要だと理解している。この街の複雑な問題は理解しているつもりだ。私がワーナーと
敵対するのは奴の思想が無視出来ないからだ。私は天使なんかじゃないけど、それでも1人の思惑で大勢が苦しむのは無視出来ない。
それが私の悪い癖。
もちろん正義の味方のつもりはない。だから『正義の味方☆』がしないように振舞いも平気でします。
これがミスティ流ってわけ。
さて。
「ボス、収穫は?」
「あったわ」
軟禁室の前にはアカハナが待っていた。
すっかり私の副官だ。
完全に私もこの状況に順応してるしね。まあ、順応してどうするんだという気もするけどさ。まあ、固有の専属兵力があるのはいい事だ。
楽が出来る。
私は副官アカハナ、そしてここにはいないけど9名の部下を従えている身分。
出世したなぁ。
まあ、これが出世なのかどうかは分からないけどさ。
「ボス、ワーナーの居場所が?」
「ええ。分かったわ」
「それは朗報ですね。アッシャー様もお喜びになるでしょう」
「そうね」
アッシャーとワーナー。
どっちが正しいかは私にはよく分からない。ただどっちが横暴かで言えば……ワーナーが少しリードしてるかな。少しだけ奴が性質が悪い。
この街の改善は必要。
アッシャーはまだ話せば分かるだろう、私の立場は現在奴隷王の腹心。NO.2です。会う機会も比較的あります。
上手く振舞えばダウンタウンの改善は出来る……と思う。
多分ね。
自信はないけどさ。
ただワーナーは無理だろー。
あの男の方が唯我独尊タイプな感じだし。少なくともアッシャーにはマリーという弱みがある。まあ、家族がいるというのは強みでもあるけど、ともかく
アッシャーには家族がある。しかしワーナーはどうだろ。見た感じではアッシャーのような人間味がなさそうだ。
まあ、ワーナーとはそんなに接点ないけどさ。
……。
……というかそもそもワーナーとは奴隷市場で最後に会って以来、会ってない。
基本的にミディアの前にも姿を出してないようだし、今までの経緯を考えると。ずっと傭兵ジェリコが仲介に入っていた。
「ジェリコか」
奴もここに軟禁されているんだったな。
尋問してみようか。
「ボス、どうしました?」
「何でもない。行くわよ」
「了解です」
コツ。コツ。コツ。
アカハナを引き連れて私は廊下を歩く。とりあえずはアッシャーに報告する為にだ。
ジェリコの尋問はその後。
「ねぇ」
「何でしょう?」
「ずっと気になってたんだけどどうしてアカハナだけレーザーピストル使ってるの?」
「昔の名残です」
「昔の?」
意味が分からない。
彼は少し口ごもり、それからゆっくりと喋りだした。
「俺は元々BOSなんです」
「BOS?」
こりゃ驚きだ。
つまりアッシャーの同類か。あいつも元BOSだし。
「顔見知りなわけ?」
「いえ。俺はウェイストランドで現地採用されたのでアッシャー様とは面識がありません。あの方はピットに残留されたので」
「ああ。なるほど」
BOSの歴史はよく知らないけど、本部である西海岸からエルダー・リオンズが大部隊率いてピットを急襲、その後リオンズ達はウェイストランドに
移住した。つまりアッシャーはウェイストランドの地を知らないわけだから、現地採用のアカハナとは面識がないのも理解出来る。
それにしても意外。
私の副官が元BOSとはね。色々な素性のメンツの仲間が増えていくなぁ。
ピットの街のゴタゴタが終わったらアカハナはどうするんだろ?
私に同行するのかな?
「それで? どうしてBOSのあんたがここでレイダーしてるわけ?」
「正確にはBOSではありません」
「はっ?」
「OCです」
「アウトキャスト?」
「はい」
確かBOSから分派した面々だ。
いや。正確には本来の任務を放棄したのはリオンズであり、そこから分派したのであれば名称こそBOSからOCに変更したものの、正確には連中こそがBOSだ。
任務的に見るとね。
……。
……てかややこしいなぁ。
アカハナ、履歴複雑過ぎ。BOS→OC→レイダー。
彼は話を続ける。
「別にテクノロジーの収集はどうでもいいんです。そういう意味ではリオンズの思想と一緒です。しかしリオンズはスーパーミュータント掃討に全力尽くし
ています。それはそれで問題はないのですがDCの掃除に拘り過ぎている。地元は見捨てられています。余力がないからです」
「OCは?」
「彼らはテクノロジーの収集の為にウェイストランドを巡回しています。その際にウェイストランドの地元民を救っています。結果的には、ですけどね」
「それで移籍したわけだ。ふぅん」
「はい」
「だけどどうしてここにいるわけ?」
「同盟ですよ」
「同盟」
「OCは規模としては少ない。技術の収集が終わり次第西海岸に撤退するつもりなのでしょうけど戦力的に少ない。今後リオンズと張り合うつもりなのか
は知りませんけど元BOSのアッシャー様と組もうとしました。俺は使者としてここに来たのですが……」
「何かあった?」
「トロッグに部隊が殲滅されました。瀕死のところをアッシャー様に拾われ、今に至るわけです」
「なかなか波乱万丈ね」
「はい」
興味深いけど話はここで一応は終了。
ある程度は聞けたし、それにアッシャーの執務室の前に到着したから話はここで一時中断だ。
「じゃあ報告してくる」
「了解しました」
私はアッシャーの執務室にいた。
既に顔パスです。
待たされる事なく面会してもらえた。完全に私はレイダーの親玉の片腕って役どころですね。
……。
……パパが見たら泣くだろうなぁ。
手塩に掛けて育てた娘がレイダーになってるだなんてさ。
ごめんパパ(泣)。
さて。
「以上で報告を終わります」
「……」
私はミディアから聞き出した情報を待立したままアッシャーに報告した。
アッシャー、難しい顔をして椅子に座っている。
反応が鈍い。
何故に?
「どうかしましたか?」
「うむ」
「何か問題が?」
「いや」
「ならば早急に軍の編成をするべきです。ワーナーから奴隷を取り上げた、手駒の大半も潰した。叩くのは今です」
「分かっている」
「こちらの被害も分かりますが……」
「待ちたまえ」
「……?」
歯切れが悪い。
何なんだろう?
別に彼に対して敬意も尊敬もない。だから臆するつもりはない。ストレートに聞くとしよう。
「何なんです?」
「実はジェリコという傭兵も尋問した。その報告では君はワーナーと連動しているとの事だった」
「ふぅん」
まあ、基本的な謀計よね。
まさかそれに引っ掛かった?
「もちろん私はそんな事はないと信じている」
「本当に?」
「当然だ。もしも君にそのつもりがあるのであればトロッグ襲来の際にどうにでも出来たはずだ。なのにしなかった。つまり奴の言葉はデタラメというのは明白だ」
「信用されてるんだ、私」
「信用というか客観的事実を口にしているだけだ」
「そりゃどうも」
「君の素性は詮索しない。それが最初の約束だ。だからそこは問題ではない。しかしだ」
「しかし?」
「しかし無視は出来ん。それにミディアのその情報が正しいとは限らん。スチールヤードに派兵したところでトロッグの餌になるだけかもしれん」
「ワーナーがトロッグを使うと?」
「アップタウンにけし掛けた様にあの獣を利用するかもしれん」
「まあ、そうですね」
弱気になってる?
奴隷王の弱気は分かる気はする。二度もアップタウンを襲撃されて弱気になっているのだ。
失脚するかもしれない、という以前に家族が心配なのだろう。
だからこそ難色を示しているのだ。
スチールヤードに遠征してアップタウンの兵力を丸裸にしたくないのだろう。もっとも父親としては、まあ、満点なんだろうけど指導者としては駄目。
攻めない気?
「まさか遠征を渋ってますか?」
「渋ってはいない」
「でもしないつもり?」
「する意味がないだろう」
「はっ?」
「ワーナーは既に羽根を奪われた鳥に過ぎん」
「……」
躊躇ってるぞこのパワーアーマー野郎。
羽根を奪われた鳥?
だからこそ一気に叩き潰す必要がある。再起されてからでは遅い。それにワーナーはキャピタル・ウェイストランドに逃げる可能性もある。向こうの方が
ピットよりも戦闘能力が高い。向うでレイダー軍団を編成して舞い戻られたら面倒だろう。
まあ、その時私はここにはいないけど。
異邦人ですから。
ともかく。
ともかく叩ける内に叩くのが戦術としては正解だ。窮鼠猫を噛むって事もあるだろうけど、叩いた方がいいという客観的事実は揺るがない。
「以上だ、下がっていい」
「しかし」
「以上だ」
「はい」
身分的には私は下だ。そんなに身分は気にしてないけどこれ以上の進言は無意味だろう。
下がるしかないか。
「ああ。ミスティ」
「何ですか?」
「マリーにヌイグルミをくれたそうだな。サンドラから聞いたぞ。礼を言う、ありがとう」
「いえ。手作りで不細工な出来ですけど」
一礼して私は退出した。
何度も繰り返すけど私はそもそもこの街には何の縁もない。しかしワーナーには色々と私怨だけどある。それは晴らす必要がある。
私の意地。
それと同時に女としてのプライドの為だ。
身包み剥がされて拉致。
屈辱です。
「それは晴らさんとね」
廊下に出ると私は小さく呟いた。
どう口説いたところでアッシャーは動くまい。
ならば。
「動くように仕向ければいい。ふふふ」
「ボス」
振り向く。
副官のアカハナがいた。私の思惑には協力が必要だ。
「アカハナ」
「はい」
「私の命令、疑わずに聞ける?」
「それはアッシャー様の御意思に反する事ですか?」
「結果的にはそうならない」
「念の為に命令の内容をお伺いしたいと思います」
「疑うわけ?」
「いいえ」
頭の良い男だ。
もちろんそれは悪い事ではない。私の副官としてはまさに相応しい。……いつまで副官でいてくれるかは知らんけどさ。
アカハナは何気に有能。モヒカンなのに(超偏見☆)。
まあいい。
彼の協力を得るには計画を話す必要がある。
「誘拐するのよ」
「誘拐、ですか?」
「そう」
「誰をですか?」
「ふふふ」
誘拐、しちゃおうか。
そうすれば全てが動く。アッシャーも追撃してくるだろう、誘拐した私を追ってスチールヤードにね。そうすれば計画は成功だ。
あとはワーナー側とぶつければいい。
簡単な事だ。
「誘拐するわよ」
その頃。
スチールヤードの廃工場。
「ジェリコはまだ帰らんのか? ……まったく。取り引きが間もなく始まるというのに役に立たん。高い金払って雇っているというのに……」